「トランプは自己資金だけで戦った」わけではないっぽい。自己資金は35%ぐらいらしい。
今朝、「トランプは自己資金で戦った」「だから、ウォールストリートの支配から抜けられる可能性がある」という記事がタイムラインに流れてきた。
だが、私の知る限りによると、それは確か選挙戦中盤ぐらいまでの話。最終的には、かなり色々なところから選挙資金を集めているという報道があり「トランプは、ウォールストリートの支配を抜け出る!」と現時点で、単純に評価することは難しいという印象を持っている。
下記、簡単に関連するものをリストにしてまとめた。
トランプ選挙資金に関する記事
- 2016年11月6日時点の記事 nj.com "Like Clinton, Trump is getting Wall Street and special interest campaign cash", Jonathan D. Salant
- http://www.nj.com/politics/index.ssf/2016/11/trump_and_clinton_share_same_special_interests.html
- トップ2の献金先は石油会社Murray Energy、Alliance Coal。またトップ10に大手金融機関であるBank of America、Wells Fargoも名前を連ねている(Bank of America とWells Fargoはヒラリー陣営の資金提供トップ10にも名を連ねている)
- なお、こちらの記事のデータ・ソースは、政治献金データベース http://www.opensecrets.org/
- 2016年11月23日の記事,"Donald Trump is raising money–for the 2020 election" Rick Newman
- https://www.yahoo.com/amphtml/news/donald-trump-is-raising-money-for-the-2020-election-191435038.html
- 自己資金による比率は下がっていった結果、35%ほどだったとのこと。
- 自己資金の問題について、日本語で書かれている記事は少ないが、ロイターのこの記事など
トランプ氏が「集めた金」のより具体的な性質を見ていくことで、トランプが自分で金を調達したといえる比率についての算定はもう少し変わるのかもしれない。ただ、「トランプが自己資金だけで選挙を戦った」という話は、今のところ出て来るデータをみる限り、「選挙戦の途中まではそうだったらしいね」という以上の感想がない。
金融規制に関する考え方
なお、トランプ氏の金融規制についての考え方だが、大和総研がまとめている。
- トランプ氏の金融規制に関する考え方(大和総研)
- http://www.dir.co.jp/research/report/law-research/securities/20161115_011406.pdf
- ドットフランク法に反対しているという点では、金融規制強化に反発しているようにも見える。が、選挙キャンペーン前の演説を聞く限りは、ウォールストリートの大手金融機関に好意的ではないという側面があり、よくわからんと。共和党が押しているグラス・スティーガル法のほうによっていく可能性もあるのかもしれないが、不透明な状況。といった感じか。
保険制度について
オバマケアについては、選挙前は撤廃を打ち出していた。だが、当選直後には、(1)26歳まで親のプランに加入可能(2)従来条件のプラン加入者に、保険会社が保険適用を拒否できないことについては、そのままにすることを公言していたことで、多くの人に安心感を与えていた。
しかし、安心感を与えたのもつかの間、昨日、2016年11月30日にやはりオバマケア批判派として知られるトム・プライス氏を厚生長官に指名したという報道が流れた
http://www.afpbb.com/articles/-/3109589?cx_part=topstory
こちらもやはり不透明な状況。
「トランプは自己資金だけで戦った」をどこまで評価するか
肯定的に評価するのであれば、トランプ氏が最終的に自己資金で戦った比率が35%とはいえ、アメリカ大統領選のようなカネがかかって仕方のないキャンペーンの35%もの金額を自分で捻出したというのは、じゅうぶん高く評価できることだとは言えるだろう。
ただし、「自己資金だけで戦っているから、ウォールストリートに支配されない」的なストーリーは、トランプ陣営側が中盤まで打ち出していたPRストーリーとしての側面が多分にあるのだろうな、という感触は強い。調べきれていないが、選挙戦後半では、もう少し言い方を工夫しているのではなかろうか。
本記事は、特に私の専門性と関わらない話なので、あまり使ってないこちらのブログで書いたが
先日、Yahoo!News個人でも書かせていただいた(http://bylines.news.yahoo.co.jp/inoueakito/20161117-00064514/)とおりで、トランプ氏まわりの発言は何かと印象論が多いので、具体的なファクトベースで総合的に判断していかないと、トランプがいいか悪いかみたいな素朴な二元論を迫られがちであるなあ、という気持ちが改めて強まった。
なお、私個人のトランプに対する評価はずっと変わっていない。大枠で予想されたとおりに、当選後に穏健化しているポイントはいろいろとある(参考:https://newspicks.com/news/1924319/body/)。だが、(1)トランプが世界情勢に与える影響がトータルでマイナスになる可能性のほうがやはり高そうだという印象は拭えないこと(2)差別発言の撤回や謝罪がないままであること、についてはとりわけ致命的だと考えているので、やはりネガティブな評価のままである。
ある政治家を支持するか支持しないかということは、結局のところ「何を重要な問題だと考えているか」という指示をする側の個々人の立ち位置によって違うのが当然である。なので、「重要」なポイントが違う人が、私と違う理由でその人を支持することは当然ある。評価項目が違えば、評価が違うだろうから、別にトランプを支持する人がそれを表明するのは良いと思う。だけれども、いいとか悪いとかいう話を漠然とするのはあまり生産的ではないので、やめてほしいと思う。